3/1に第3回ワールド・ベースボール・クラシックが開幕しました。この日、日本はブラジルと対戦して5-3と勝利を収めました。
2-3と日本が1点ビハインドの8回表。この回の先頭打者である3番内川が三遊間を抜くレフト前ヒットで出塁。続く4番の糸井が送りバントを決めて一死二塁。5番稲葉に代わって登場した代打の井端が一・二塁間を破るライト前ヒットを放ち二塁走者の内川が生還して3-3の同点。ここで投手交代しますが6番長野が内野安打で繋いで7番の鳥谷がフォアボールで出塁して満塁。8番相川の打順で代打阿部が登場してセカンド強襲のライナーで二塁走者が封殺されるも併殺を免れてる間に勝ち越し。9番松田のセンター前ヒットでダメ押しの1点を加点。残る8,9回を無失点で切り抜けるという展開でした。
この8回表の糸井のバントについて。
この試合は日本はエースの田中を先発に送り出したにも関わらずミスも絡んで先取点を許しました。3回に糸井のタイムリーで同点に追いつき、4回には坂本の犠飛でいったん勝ち越しに成功したものの、日本の投手陣でも抜群の安定感を誇る杉内が失点。更には5回には杉内をリリーフした昨年沢村賞を獲得した摂津まで失点。どの投手も投球を見る限り調子が悪いようには思えませんでしたが、ブラジル打線がしっかりバットを振れていたこともあって巡り合わせも悪い失点でした。特に初回と5回の失点は1番打者が出塁して3番打者が返すという攻め側のチームとしては理想的な得点方法であり、流れは完全にブラジルにあるように見えました。
日本の攻撃は5回が三者凡退、6回には先頭打者が出塁しながら併殺、7回は2三振を含む三者凡退に打ち取られている中で、8回に先頭打者がヒットで出塁・・・というのが糸井に打席が回って来るまでのおおよその経緯です。
ここでバントをする作戦をとるということはまずは同点を狙うという意図があります。とりあえず同点にさえ持ちこんでしまえば、延長戦まで見据えた投手戦を日本は有利に戦うことができます。これは日本には優秀なピッチャーが多いということもありますが、予選上位候補のキューバと日本が対戦するのは5日後の3/6となっていて中日が空く日程になっているおかげでブラジルに比べてピッチャーを惜しみなく注ぎ込みやすいという面もあります。また、事前に行われた強化試合での成績を見ると糸井が本調子とは程遠いという見識をされていたということもありフリーで打たせてもチャンスを拡大できる可能性が見込みにくかったことや6回の併殺が頭をよぎったからということなどがこの場面でバントする作戦を選んだ理由になるでしょうか。
テレビ放送で観戦していた私はこの作戦はまずいように感じました。まず、仮にこの回同点に追いつくことができたとしても、8回のブラジルの攻撃は好調のレジナットを含む上位打線から始まる打順だったので、ここで流れを上手く変えることができなければ再度勝ち越しを許して負けてしまうように思えたことが一つ。次に、糸井は本調子でないという見方がされていましたが、3回に糸井が同点タイムリーを放ったときにも「内角にくれば打ち返せそうだな」と思っていたらその通りに打ってくれたこと、むしろ続く5,6番の稲葉・長野の方が本調子ではないように私には思えたので、送りバントでアウト一つを犠牲にしながら同点に追いつけるかどうかさえあやしいと思えたことが主な理由です。
流れを上手く変えるというのを具体的に提示することができませんが、要するにこの回で逆転を狙いそのまま逃げ切る方針が最も勝ちやすいと判断したということです。もちろん、最悪の場合は併殺になってしまうこともあるでしょうが、8回に得点できずにそのまま負けてしまっても8回に同点に追いついたにも関わらず再度勝ち越しされて負ける試合になったとしても1敗という結果には変わりはありません。
糸井がフリーで打っていたらヒットでチャンスを拡大していたかはたまた併殺でチャンスを潰していたか・・・実際に選ばれた作戦は送りバントだったので分かりません。いずれにせよ、送りバントの後の代打井端がしっかり安打を放ち同点に追いつくことができたので作戦は成功したと言えるでしょう。
試合の様子を見ていると、ただ同点に追いついただけではありましたが井端のこの一打で球場の雰囲気がガラッと変わったような印象を受けました。流れが傾いたのかうまくハマった内野安打とフォアボールに加えて勝ち越し打もセカンドが打球をはじくというラッキーも重なり逆転に成功してダメ押しの一打まで加えることができ、その流れを引き継いでリリーフの能見・牧田が危なげなくゲームを締めくくりました。同点に追いついてもあまり流れは変わらないのではという私の見立てはどうやら甘かったようです。
前・中日ドラゴンズ監督の落合博満の著書『采配』の冒頭で・・・
「どんな局面でも、采配というものは結果論で語られることが多い。
采配の是非は、それがもたらした結果とともに、
歴史が評価してくれるのではないか。
ならばその場面に立ち会った者は、
この瞬間に最善と思える決断をするしかない。」
・・・と語られています。
良いと思われる采配をしても選手が仕事をしてくれなくては勝てないので良い采配にはならずそれは悪い采配と評価されてしまう。また、その逆であまり良くない采配だったとしても選手が仕事さえこなしてくれれば勝利には繋がりやすく名采配と評価される傾向がある・・・結局、試合に勝った要因は監督が良い采配をしたからではなく選手が頑張ったからという部分にあり、負けたときには選手が頑張れなかったからではなく采配が良くなかったからと責任だけは非常に重たいです。これが采配を振るう人に必要な覚悟でありつくづく采配は難しいように感じます。
プロでもアマチュア・未経験者でもそれぞれに野球観があるためか「ここでバント!?」「いや、普通はバントさせる」というように様々な意見が飛び交っていて面白いと感じました。今回のバントは逆転につながり試合に勝利したという結果で語ると良い采配だったと言えるのではないでしょうか。
WBCで2連覇を成し遂げた過去の日本チームと見比べると今回のチームはかなり見劣りしていて他国を迂闊に格下とは言い切れないのではないかということからも3連覇への期待感というのはやや希薄にはなりますが、国際試合という緊張感ある試合はやはり観ていて面白かったですね。