「転職の思考法」を読んだので感想。

「このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む転職の思考法」を読んだので。

(調べてみると上記が正式名称みたいですが冗長なので記事タイトルでは省略)

 

著者は北野唯我。ちょうど1年ほど前に「天才を殺す凡人」という著書を読んでおり、それがなかなか面白かったので内容には期待できると思っていました。

「天才を殺す凡人」の感想。 - やせいのひとりごとがとびだしてきた!

 

 

○大雑把な要約

「このまま今の会社にいていいのか?」そう思って転職を考え始める人間は多い。転職に必要なのは上辺の情報ではなく思考法である。それは一生食べていくための方法論であり、転職を考える上での判断基準にもなりうる。

この本では転職を推奨しているわけではなく「するしないに関わらずいつでも転職できる状態を作ること」即ち「マーケットバリューを高めること」の重要性を説いている。マーケットバリューはその名の通り自身の市場価値のことで、それがないと選択肢を持つことすらできず、今いる会社にしがみついて生きていくしかなくなる。

マーケットバリューは「技術資産」「人的資産」「業界の生産性」から構成されるが、特に「業界の生産性」についてはそれだけで差異が大きく、衰退する産業ではなく伸びている市場で働くことを強く推奨している。また、給与とマーケットバリューは長期的には一致することが多いので、「マーケットバリューを高められるかどうか」は転職先を選ぶ上で重要な判断基準であると言える。

 

 

○構成について

本書は自身のキャリアに不安を覚える主人公がコンサルタントから転職の思考法を教わる設定の物語形式。全部で4章構成となっています。

1章は「一生食えるを確保するための4ステップ」として思考法の基本となるマーケットバリューについて、2~4章は思考法を理解した上での具体的な話や会社や仕事との向き合い方についてなどが記されています。本書は全260ページほどなのですが、1章だけで約140ページを使っており、根幹となるマーケットバリューについての理解がそれだけ重要なことを示していると言えるでしょう。

物語形式なので実際のページ数よりも手早く読むことができる上に、あとがきの後ろに物語の中から重要な部分を抽出したノートまとめがあるため、ポイントは抑えやすくなっていると思います。

 

○感想

会社勤めで働いている身として、共感できる部分と知らない発見があって面白かったです。仕事に対する自分なりの考え方は持っていて、それと共通する部分が多くありました。その上で、私に知見がなくて理解がない領域に対しての言及があったので、一つの考え方として参考にできると思いました。

「何のために働くのか」と言われたら生活費を稼ぐために他なりません。好きなことをして生きていくにも生活費の支払いは欠かせず、そうやって暮らす継続的な状態を維持するためには安定的にお金を稼ぐ能力が必要になります。となると、それは他者に依存しない方が望ましく、会社も例外ではありません。これは本書で言われている「マーケットバリューを高める」の話と繋がっているでしょう。

とはいえ、そのために何をすべきかは実際に働いてみないと分かりません。また、いくつかの会社に身を置かないと相対的な比較もできず、あまり明確な考えが自分の中にはありませんでした。本書では「20代は専門性、30代は経験」「伸びている業界を選ぶ」と書かれており、後者については納得感を持てました。

ただ、前者の「20代は専門性、30代は経験」にはいくつか疑問に残ります。これは「能力のある人に仕事を任せたい」という自然な発想から来ており、部活を例にしても「試合でスタメンになるのは練習で能力が高いと見込まれた人たち、スタメンは試合経験を積んでいくから差はどんどん大きくなる」というケースを経験したこともあってそれ自体は納得できます。その意味で最初に専門性が重要視されているのですが、例えば昨今の技術は日進月歩であり、20代のときに身に着けた技術が以降一生使える資産になるとは限りません。そのため、専門性に対するアップデート自体は常にアンテナを貼っておく必要があると思っていて、そこへの言及は薄かったように感じました。また、30代以降経験を重要視するのは、センスや才能に長けていないと専門性だけでは生きていけないからと記述はあるのですが、その際に「経験はどこを選ぶかのポジショニングの問題で、それは思考法で解決できる」と記されており、ここに対する掘り下げた説明がなかったので、この考え方についてはあまり理解ができていません。

 

○余談:やりがい

「君にとっての好きなこととは何か」という話があって、やりがいについて思ったことがあったので。

まずやりがいが必要になるのは「仕事を継続するための理由(モチベーション)」のためです。多くの場合は、お金を稼ぐために働き続ける必要がありますが、そのために生活時間の大半を費やすことになるので、仕事を嫌々続ける状態は生活そのものを不幸せにするでしょう。そうならない(と自分に納得をさせる)ために理由が必要になります。

ただ、やりがい自体は「ほとんどの場合はない」と思っています。ここでいうやりがいは「収入が半分以下でもその仕事をやりたいか」で、これにYesと言えるひとは余程の情熱があるか課題解決能力の高さから本当にそれに喜びを感じられるかではないでしょうか。なので、そのどちらでもない場合は自分で仕事に対して何かしらの意味を見出す必要があると思います。

私の場合は「仕事で得られるものが自分の仕事以外の生活に役立てられそうか」を基準に考えました。何か活かせるものを学びつつお金を稼げると捉えられればまだポジティブに考えられそうです。また、幸いなことにこれは今までなくて嬉しいのですが、人を欺いたり思ってもないことを言わされる等は自分の心を傷めてしまうので、意味とは少し異なりますが基準としては大事だと感じました。

 

○細かいネタに対する感想など

・転職というのは多くの人にとって初めての意思決定

・確かに小中高大とレールに乗って社会人になる上で何かを選びはしているものの、どれも今ある物を捨てるという選び方はしていない

・「最強の会社とは、いつでも転職できるがそれでも転職しない会社」わかる

・とはいえ「転職は悪」と考える人も世の中にはいるらしいことは覚えておく

・そうやって会社にしがみついている人は、他に居場所がないために居場所として依存してしまっているのかもしれない

・転職エージェントのモデル的に早急な転職を進めてくるので見極めが必要なのは理解していた

・ただ、企業側も人材を募集する際にいくつかのチャネルを使い分けることは頭に入っていなかったので目から鱗だった(冷静に考えれば気付ける)

・物語の中には思考法を理解しながら今の会社を良くしていこうとする場面もある

・ただ、そこで会社にしがみついている人間が明らかな不正を働いていたというのは現実的ではないのでアレ(…いや現実的なのか、それはそれでかなしい

・人間には「to_do型:何をしたいか」と「being型:どんな状態でありたいか」の2種類いて、99%の人間がbeing型

・いくつかの書評を見てもこの点を取り上げないものがないので、多くの人間にとってやりたいことを見つけるのは難しいのだと思った

・マーケットバリューを高めるための環境としてはベンチャー企業の方が向いている気がする

・とはいえ、ベンチャー企業には上昇志向の人間が多い可能性もあり、それを強要されるとつらそう

・「伸びている業界で働く」ことは重要だけど、それを把握するための術は書いてない

・もしかして世の中の人間はビジネスへの興味度が高く、その程度が当たり前になっている…?(