第3回WBC準決勝 日本vsプエルトリコ 8回裏のダブルスチール

日本時間で3/18の早朝から第3回ワールドベースボールクラシックの準決勝が行われていました。日本代表はプエルトリコ代表と対戦して惜しくも1-3で敗戦してしまいました。


0-3と3点ビハインドで迎えた8回裏。一死から1番打者の鳥谷がスリーベースヒットで出塁すると、2番の井端もこれに続いてライト前のタイムリーで1点を返します。3番内川も詰まりながらもセンター前ヒットで続き、同点のランナーが出塁して4番の阿部を迎えます。ここでプエルトリコは投手を交代させましたが、日本に走塁ミスがあり一塁走者の内川がアウトになり阿部も凡退してしまったため、1点止まりとなり同点・または逆転の芽を摘んでしまいました。


試合終了後に「ダブルスチールのサインだった」と監督が言われていましたが、ここでのダブルスチールについて。
今回は8回表の途中からしか試合を観ることができていないので、事前の流れを含めてお話することはできませんがご了承ください。



二塁走者の井端がスタートする素振り(いわゆる偽走)を見せましたが、打者の阿部は打ちにはいきませんでした。ここで、一塁走者の内川が二塁に向かって全力で走っていましたが、二塁走者の井端が帰塁しているのを見て立ち止まります。結局、井端が飛び出してしまうと2人ともアウトになってしまう可能性もあるので内川が一二塁間でタッチアウトになり一死一・二塁という状況が二死二塁という状況に変わりました。


ここでの作戦としては色々考えられますが、試合後に「ダブルスチールのサインだった」と聞くことはできたので、ダブルスチールで間違いないのでしょう。
阿部が打たなかったのはサインがダブルスチールだったから。内川が全力で二塁へ走ったのはダブルスチールだったから。これで説明ができます。しかし、井端は三塁へと走りませんでした。そのせいか監督の会見では「井端がサインを見落とした」という風に述べていましたが、果たして本当にそうなのでしょうか。


全く違う状況を考えてみたいと思います。1回表、先頭打者が出塁して無死一塁。ここでの策は色々と考えられますが、たとえば盗塁のサインが出たとします。しかし、一塁走者は相手のモーションを盗むことができずにスタートが遅れてしまいました。スタートが遅れてしまったので、そのまま二塁へ走っていってもアウトになってしまう可能性が高いです。アウトになると一死となってせっかくの先取点を奪うチャンスを逃してしまいます。そのまま走ってもアウトになると分かっているのであれば無理に走るのを諦めて無死一塁の状況を保つ方が戦術を切り替えたり次の投球で再度仕掛けることができたりと策を練ることができるので非常に賢明な気がします。


今回の井端が結果的に偽走を仕掛けることになったのもこれと同じような判断だったのではないかと思っています。リプレイ動画を見た限りでは投手がモーションに入るのとほぼ同時に井端がスタートを掛けていたような気がします。捕手から送球が届くのは二塁への送球よりも三塁への送球の方が時間が短く、三盗は二盗に比べるとより良いスタートを切らないと成功しにくいので、このスタートではおそらく三塁へ走ってもアウトになっていた可能性が高いでしょう。ここで三盗に失敗してしまうと貴重な終盤の同点のランナーを失い二死二塁と状況は悪くなってしまいます。そういった理由で井端はスタートが遅れて三盗を諦めたのかと思います。


しかし、実際には一塁走者の内川が二塁へ全力疾走して挟殺されてしまい、二死二塁と井端が三盗に失敗したときと状況的には変わらなくなってしまいました。試合後の監督の言葉では「井端がサインを見落とした」という風に述べていましたが、井端が上に書いたような理由で盗塁を諦めていただけならば一死一・二塁という状況を保てたように思えます。戦犯や粗を探すのが目的ではありませんが、ここでのプレーのミスは内川の走塁にあったと思います。
リプレイ動画を見た限りは一塁走者の内川は視線を二塁に向けたまま全力疾走していました。守備側としてみれば、一・二塁の状況でのダブルスチールは三塁で刺殺を試みることが多いです。これは先ほど述べたように捕手から二塁までの距離より三塁までの距離の方が短いため刺殺にできる可能性が高いこと、また二塁に悪送球が渡ってしまった場合は三塁へ悪送球が渡った場合に比べると三盗を成功させた二塁走者を本塁に生還させてしまう可能性も高くなること、これらの理由が考えれます。なので、よほどスタートが出遅れてスピードが遅くない限りは一塁走者が二塁で刺殺されることは稀なケースだと言えます。なので、一塁走者の走塁としてはエンドランのときと同じようにスピードを多少落としてでも周りの状況を見ながら走るのが正解だと言えるでしょう。特に、重盗を試みる場合は前のランナーが詰まっていないかを見るのが基本だと言えますが、今回は井端がスタートを諦めたことが視界に入っていなかったようです。


さて、「ダブルスチール」という言葉が監督から出てきましたが、この場面においてのダブルスチールはどうでしょうか。
終盤で2点差、出塁しているランナーは2人、アウトカウントはワンアウト、打者は4番。この場面においては、盗塁に失敗してしまうとツーアウトとなり出塁しているランナーも1人。打者が打線の中軸と言われる4番打者なだけにここで打ってくれる期待を持ちやすく、仮にヒットで繋ぐことができれば1点を還してなおも同点のランナーが二塁にいて一塁には逆転のランナーがいるという状況を作ることができますし、仮に凡退してしまってもゲッツーを除けば二死一・二塁で5番打者を迎えることができます。それだけに盗塁が失敗した状況では返せても1点の可能性が高くなるためにリスクの高いダブルスチールという策をほとんどの人は考えなかったでしょう。
ということは、裏を返せば今回のダブルスチールはそれだけ意表が突けるということです。成功した場合のリターンを見ると一死二・三塁となって一打同点の場面で4番から続く打順を迎えることができます。ピッチャーは交代したばかりだったこともあり意表を突いたダブルスチールが頭に入っていなかったかもしれません。特に、残された回があと2回だっただけにまずは同点に追いつきたいという意識も強くリスクは高いですが成功した場合に限ってはそれに見合ったリターンを得られそうな作戦だったと言えるでしょう。


結果的にはダブルスチールは失敗に終わってしまいましたが、この作戦は意表を突ける点と成功したときのリターンを考えると良い戦略だったのではないかと思います。何がなんでもダブルスチールを決めなきゃいけないわけではなく、戦略の一つとして面白かったというだけなのでチームのキャプテンにも任命されている阿部に任せるという戦略も十分魅力的だと思いますが((
※追記
プエルトリコのキャッチャーはメジャーリーグでも屈指のプレイヤーだったということで予想以上にリスクが高かったようですね。それだけのリスクを呑みこんでダブルスチールという作戦を選んだ勇気は素晴らしい・・・と言いたかったのですが、これもどうやら「いけたらいっていい」という曖昧なものだったそうで・・・(


しかし、監督の会見では「井端のサインミスだった」としか語られていないようでは組織をまとめる人間として少しいただけない気がします。監督の会見を要約したのはマスコミであり、私たちの情報はマスコミを通じて伝わってきているので実際にはそのあとカバーするような言葉を発言していたのかもしれませんが、選手はミスをするかどうかは別としてグラウンドでは全力を尽くして戦っているだけに会見の言葉がそこで終わっているようであれば残念でなりません。
※更に追記
今回の日本代表監督に山本浩二が就任した経緯をあまり知りませんでしたが、「誰もいないのなら私がやる」というスタンスで監督を引き受けていたようでした。これは別の方のブログを読んで共感したことなのですが、負けたら日本中の野球ファンから袋叩きに遭うことを北京五輪の場で皆が学んだにも関わらず、連覇を果たしたときとは明らかに劣る戦力しかない日本代表の監督に自ら立候補した・・・その決意だけでも素晴らしいように思いました。