『2番打者論』を読んで2番打者考察

『2番打者論』という本がありました。
読んでみたので適当に感想を書くことにします。ただし、私が懐古しているだけとも言えますのでその辺りはご了承を((


私の2番打者に対する所感をまとめると、おおよそ以下のような感じです。

  • そもそも2番は1番の次に打席に立つ機会が多いので優秀なバッターを置きたい
  • 『2番打者論』の中では2番として徹底的に育成された選手もいるが、基本的には攻撃的な姿勢が欲しい
  • 2番にどういう選手を配置するかで監督の野球観が見えてくる気がする
  • 最近、バントする2番打者が多いのは投高打低の風潮で2番に優秀なバッターを置けないからではないか

2番打者というと「バントがうまい」「器用そう」と打力のないバッターが小技を中心に打席に立つのが世間一般によくあるイメージでしょうが、私はあまりそうではありません。
私がプロ野球に興味を持った頃の巨人の2番打者はバントで有名な川相昌弘ではなく清水隆行でした。また、日本ハムでは小笠原導大が2番を打っていたり、数年後のダイエーは2番にバルデスを置いて40本塁打カルテットの強打を誇る打線を組んでいました。こういった例を見てきたこともあって、私の中では昔から「2番打者は絶対的にバントが大事」とはあまり思っていません。
そして、今思っているのは「2番に誰を置くかによって打線の形(戦術)がガラっと変わる」ということです。基本的には1番が出塁してスリーアウトになるまでに4番が返すという意図で打順が組まれることが多いですが、4番までどう繋ぐかの過程で2番打者ができる仕事は様々です。そのため、ここにどういう選手を配置するかで先述の幅が大きく変わります。


本書はプロローグやエピローグを含めず9章で構成されていて、一人の2番打者をピックアップしてその人がプロに入る前から2番を打つことになった経歴、実際に2番を打っているときの話やどのように考えているかなどをまとめて、章のラストでは次章でピックアップする2番打者の話を繋げるという形式を取っています。
印象に残っているのは、中日の井端弘和の「二軍でホームランを打ったら怒られた」というエピソードです。首脳陣は将来的に2番打者になってもらうことを期待していたようで、2番打者の育成というのはそれくらい徹底して行う必要のあるものだと感じました。もう一つは巨人V9時代の監督・川上哲治の「監督に“打つな”と言われて黙ってただ待っているだけのようじゃ、いざというときに打てない」という言葉です。その後に取り上げられている西武の栗山巧も「ど真ん中にきたら打ってやる、というのはいつも思っている」と書いていましたが、やはり2番打者には攻撃的な姿勢が必要だと思いました。


私も野球をやっていた頃にしばらく2番を打っていた経験があるのですが、制約を課せられることもそれを意識することもあまりありませんでした。
なので、2番打者として何を期待されていたのかを考えたことがあるのですが、その結論としては「1,2番で一死二塁以上の状況を作りたい」ということを意図していたのではないかと思います。私が「左打者」「セーフティバンドが得意」「出塁率が高い」「ノーサインで盗塁ができる」という特徴を持つ選手だったので、1番打者に置くという考えもあるのではと自分で思ったことはありましたが、仮に1番がアウトになっても2番が出塁して盗塁すればチャンスを簡単に作れるという動きを狙っていたのだと思います(全てノーサインの練習試合をしたときに1回の無死一塁からバスターを試みたことの意図を聞かれたことがあり、そこで意図が垣間見えた気がします)。
このように2番打者に誰を置くかというところに、監督がどういう野球をしたいかという戦略・価値観がかなり表れるような気がします。


2番打者が右打者か左打者か。それだけでも戦術は変わってくるので面白いですね。
右打者であれば一塁ランナーの様子が見やすいので盗塁のサポートがしやすいことと右方向に打たせまいと投げてくる球を右方向に打ち返すのは右打者の方が難易度は易しい気がします。そのため、ランナーを進塁させることを考えるなら左打者よりは右打者なのでしょう(個々の選手の能力にもよりますが)
逆に、左打者であれば一塁ランナーの様子は見えませんが、引っ張って強打したときに右方向に飛ぶのでチャンスを拡大しやすかったり、バント処理ももたつくと内野安打とされやすくなっています。右の2番が典型的な型だとすれば、左の2番打者にはまだまだ潜在的な可能性があるような気がします。


最近のプロ野球を見ていると、なんとなくバントが増えているような気がします。統一球の影響からか投高打低の風潮が強まり勝つための1点を奪うのが難しくなったために、増加傾向にあるのかと思います。しかし、これは根拠こそないですが、バントを多用せざるを得ないのは「投高打低の風潮で優れたバッターの数が多くなく、2番という良い打順に優れたバッターを置けないから」ではないでしょうか。
2番に優秀なバッターを置くことで初回を筆頭に出塁率の高い1番を起点に様々な戦術をとることができます。しかし、肝心のポイントゲッターがいなくてはそれを得点に結びつけることはできないので2番を打たせたいバッターを3番や6番に置かなくてはならず、代わりに配置する2番打者ではリスクも高いエンドランなどを仕掛けることができず、ひとまず素直にバントをさせて走者を進めるという戦術が取られやすくなっているのではないかなと思います。
よく「強いチームには良い2番打者がいる」という表現を用いますが、そうではなくて「2番に優秀な打者を置けるように打線が充実しているチームだから強い」というのが適切だと思います。


好投手を打ち崩すにはバント一辺倒では通用せず、様々な戦法でかき回す方が効果的であるにも関わらず、現状それができないというのは多少情けない部分もありますが、打球が飛ばずに長打が出ないせいにせずに投高打低の風潮を打ち崩すことができる野球を見せることができれば、プロ野球もより一層楽しめるようになるのではないでしょうか。