投手の「本格派」「技巧派」の定義を考察

野球のピッチャーで「本格派」「技巧派」などとよく言いますが。
果たして、その定義とはどういうものなんでしょうか。


・・・というわけで、ちょっと考察してみます。



まずは、日本語について調べてみましょう。


○ほんかく(本格)
本来の格式。もともとの方式。また、それに従っているさま。本式。


○ぎこう(技巧)
技術上の工夫。特に、芸術の制作や表現における技術的な工夫。テクニック。


○そっきゅう(速球)
野球で、投手の投げる速度のはやい球。


○なんとう(軟投)
野球で、投手が速度の緩い変化球を投げること。


○は(派)
1.一つのもとから分かれ出た、流儀や傾向・態度を同じくするそれぞれの仲間・系統。
2.接尾語的に用いて、仲間・系統を表す語の下に付き、そのような性格・傾向をもったものの意を表す。


「速球派」「軟投派」という表現もあるみたいです。よく一緒に挙げられる表現だと思うのでまとめて考えてみることにしました。


投手は投球を行いそれを打ち返す打者と対戦します。野球は元々“打”のスポーツで打者に打ちやすいボールを投げるのが投手の役割でしたが、歴史を重ねるうちに投手は打者を抑える(失点しないようにアウトカウントを稼ぐ)のが役割と変わりました。すなわち投手は打者からゴロアウト、フライアウト、三振のいずれかでアウトを稼ぐことが求められています。
「本格派」「技巧派」などというように呼ばれるのは打者と対戦するときのスタイルの違いを分けるためでしょうか。対戦時のスタイルの違いとして考えられるのは、球種などを含んだ配球などの対戦過程とそれで打ち取った対戦結果などでの分類になると思います(もちろん、配球が導きやすい結果はありますし、その結果を導くために配球を考えるものですが)。


ここで「速球派」「軟投派」という表現ですが、「速球」や「軟投」という単語の意味には打者との対戦結果に関する要素は含まれていません。言葉の意味でそのまま考えると「速球派=速球+派=投げる速度の速い球+そのような傾向を持つもの=速度の速い球を投げる傾向を持つ投手」という解釈の仕方が自然だと思います。同じように「軟投派=速度の緩い変化球を投げる傾向を持つ投手」と捉えられます。投手は基本的に直球と変化球を投げ分けるのが一般的なので「速球派=投球の中で直球を投げる割合が高い」「軟投派=投球の中で変化球を投げる割合が高い」ということでしょうか。


では、「本格派」と「技巧派」とはなんでしょうか。これらの単語としての意味には野球に限定した要素は含まれていません。単語としての意味から考えられるのは「本格派=投手としてあるべき格式の傾向を持つ投手」「技巧派=技術上の工夫を凝らす傾向を持つ投手」ということになります。そもそも「本格」と「技巧」は対義語の関係にないので、本格に対して工夫を凝らす必要があるのが「技巧派」なのではないかと思います。


さて、「本格派=投手としてあるべき格式の傾向を持つ投手」としましたが、投手としてあるべき格式とはいったいどういうものなのか。今回の考察で辿り着いた結論は「三振を多く奪える」ことです。
既に挙げたように投手の役割は失点せずにアウトカウントを稼ぐことになります。ゴロアウトやフライアウトは野手が打球を処理する際に失策などが起きる可能性がありますが、三振は打球が前に飛ばないので最もアウトにできる確率が高い打ち取り方です。失点しないためには最もアウトにできる確率の高い打ち取り方をするのが理想的なので、全ての打者を三振に打ち取るのが投手としての役割をこなすために最も理想的な手段と言えるでしょう。投手としてあるべき姿というのは役割を全うすることだと解釈したので、「本格派=三振を多く奪える投手」という結論に達しました。
また、私は試合に参加して勝利を目指す思考しかなかったのですが、観戦する立場が“投手と打者の一騎打ちで本塁打か三振か”という展開を求めることはよくあることで、試合を観戦する側にとっても奪三振の多い投手は投手としてあるべき姿勢という点で適っていると言えるのではないでしょうか。
消去法のような考え方ではありますが、「本格派」が三振を多く奪える能力がある「狙って三振をとれる投手」としたので、「技巧派」というのは三振を多く奪うことができない「狙って三振をとれない投手」と定義するのが良いでしょうか。


これまでに考察したことをまとめると、このようになります。

〜投球の内容によるスタイルの分類〜
・速球派→配球の球種割合で直球が多い投手
・軟投派→配球の球種割合で変化球が多い投手

〜投球の結果によるスタイルの分類〜
・本格派→狙って三振を奪う能力のある投手
・技巧派→狙って三振を奪う能力のない投手


私の価値観で解釈を進めて決めてしまった定義はありますが、この定義であれば「速球派」と「本格派」の分類の基準が違うので「軟投派」且つ「本格派」や「速球派」且つ「技巧派」という分類の仕方もできると思います。
直球で真っ向勝負するというイメージを「本格派」に含んでいる人には「軟投派」且つ「本格派」というのはありえないと思うかもしれませんが、私は何で勝負しようが投手が自信のある球を投げ込めばそれが真っ向勝負であると思っているのでカーブだけ3球投げ続けるのも直球と投げ分けるのも立派な真っ向勝負だと思っています。


因みに、分かりやすいように対比表現を用いましたが、「技巧派」は狙って三振を奪える能力がないという点で「本格派」に対して劣化する形になってしまうので「技巧派」の正しい定義は「狙って三振を奪う能力こそないが失点せずにアウトカウントを稼ぐことができる投手」だと思います。もっとも「本格派」も投手としての役割を全うするために失点を少なく抑えることができるのは前提となっていますが。