「僕が電通を辞める日に絶対伝えたかった79の仕事の話」の感想。
著者は元電通・エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターの本田亮。因みに、私は前提知識もなく「電通は分かるけど、どんなひとなのかは知らない」という状態で読み始めましたが、よく聞くフレーズである「ピッカピカの1年生」というコピーをはじめ多くのTVCM企画制作に関わる伝説とも表現されるような方らしいです(そのすごさを全く実感できていませんが)。
本書は2013年に出版されています。手にしたのは実は2年前で、上昇志向系(?)の知り合いと本屋に立ち寄ったときに「面白そうだね」「そうだね(てきとー」みたいな流れで購入しただけでした。特に強い動機はないのでそのままにしていましたが、生きていればこんな出会いもたくさんあるはずで、人生は巡り合わせが大事でその縁を大切にしたいなと思っているので、目を通してみようというと思った次第です。
著者が本書を書くきっかけとしては、世界で一番大きい広告代理店にコネ入社ながら目の前の仕事と格闘しているうちに局長にまで就いた・・・そんな著者が早期退職で会社を去る際に残る社員に向けたラストメッセージ講演を依頼されて、思いのほか好評だったことから「それならこのメッセージをもっと多くの悩めるひとに伝えたい」と思ったことだそうです。
内容としては6章構成で「今よりもう少し効率良く・楽しく・豊かに過ごしたい、そう思うひとにヒントを与えられれば」という仕事・人生術となっています。タイトルに「…79の仕事の話」とあるように79項目が見開き2ページで1項目ずつ書かれており、見出しがある・要点にラインがあるということで読みやすくなっており、読み返すときにもサクッと好きなところだけピックアップがしやすくなっています。
この記事では、それぞれの章の大雑把な内容と私が気になった項目について触れていきたいと思います。
余談ですが、この類の本の感想は項目を箇条書きにしてそれぞれについて一つずつ書いていく形式の方が良いかもしれません。箇条書きは見やすく分かりやすい反面でそれぞれの項目が独立しているため流れが見えづらく繋がっているように錯覚してしまうこともあります。今回の場合だと、それぞれの項目に対して思ったことを書いているので流れの話はありませんからね。
1章は会議・企画の話が中心でした。プレゼンの目的は「おもしろい企画だと分かってもらうこと」で、そのためには人間味や情熱など全身全霊を以ってそれを伝えることが大事だという話です。
1つ目の項目が「バランスの悪い人間がなぜ魅力的か?」ということで、印象に残って覚えてもらいやすいことは大切だという意味で平均的な人間よりどこかバランスが悪い方が良いという内容でした。私も「変わってるね」とよく言われるのですが「普通であるよりはよっぽどいいでしょ?」と好意的に捉えることが多いので、その内容には共感しました。
ただ、後々「完璧な人ほどつまらない」という表現が用いられていた部分があり、これに関しては疑問に思いました。何を持って完璧かそうでないかを定義するかが定かではないですが「完璧な人はどれもソツなくこなすから、ある意味平均的」というニュアンスなのでしょうか。私の価値観で言うと、完璧な人というのをたぶん(未定義なので)まず見たことがなくて、そんな物珍しい人がいたら周りとは絶対に何かが違うはずだから印象にも残り面白味もあるのではないかと感じました。
2章は企画を考えるコツ。人の話・新しい物など色々なものを受け入れて引き出しを増やしておくことが大事で、著者はそのためにアイデアノートを作り鮮度の表れた言葉を残しておくことを薦めています。
この章で印象的だったのは「おもしろがる心を止めちゃいけない」という項目です。アイデアが生まれるのは頭を悩ませているようなときではなく楽しむ心を持って面白いことを考えているようなときで、おもしろがる心が発想からアイデアを引き出すという内容でした。
楽しむ心から引き出されたアイデアは「自分が面白いと感じる」「他人がそれを面白いと感じる」という2つの面があると思いました。あいにく私は共感力が低い人間なので他人が何を面白いと感じるかをあまり理解できていません。そういうこともあって、新しいアイデアを生むことについてはあまり得意ではないと思っているのですが、それならばせめて「自分が何を面白いと感じるか」についてはぼんやりではなく明確に持っておくべきだと思いました。物事を考えるときに楽しくやれたらいいなとは思いますが、もっとその意識を高めるべきなのかもしれません。
3章は失敗したとき、4章はできる人のポイント、ということで1,2章に比べると方向性の違う項目がそれぞれ詰め込まれています。
この2つの章はあまり印象に残ったことがありませんでした。失敗は自分の経験として失敗しないと実感を持って学習しづらいこと、できる人のポイントに関しては著者が他人を見て感じたことが中心ながら一般論的な部分が大きかったこと、があまり響かなかった理由でしょうか。とはいえ、一般論で言われていることをしっかりこなせている人ってそう多くはいないですよね。
5章は時間管理について。これもそこまで特別なことはありませんが、実践できない人の方が多いでしょう。「やりたいことを後回しにしない」ことが大切で、どうやったらそれを実践できるかを考えると「なんとなく」感のあるムダな時間をなくしていくことが時間の作り方になります。
この章で目に留まったのは「夜中に呼び出されてもいい仕事をする」という項目です。就職してから30〜40年を1日8時間働くとなると人生の2/3は仕事に関わる時間になるので、この時間が不幸であるということは人生の半分以上は不幸ということになってしまう。そのため、「自分が好きな仕事(夜中に呼び出されてもいい仕事)を見つける」ことが大切だ、という内容です。
生きるためには稼がなくてはならず、稼ぐためには働かなければならず・・・多くの人はこの現実を打破できないため仕事に向き合わざるを得ません。なので、仕事をしている時間を不幸にしないことには共感できます。ただ、「夜中に呼び出されてもいい仕事」というのは結構ハードルの高い話でもう少し下げられないものか、と思いました。
あまり仕事のことは分かりませんが、そもそも仕事を「やりたいこと」ではなく「やらねばならないこと」と捉えている人も少なくはないと思っています。なので、最初の一歩はやらねばならない仕事の時間が自分にとってまだプラスになりやすいと思えるような仕事を見つけるのが良いのではないでしょうか(余談ですが、捉え方次第な側面はあるものの、やって何も得られない仕事は基本的にないと思っています)。また、プラスになりやすいと思えるようにする点では、明らかにマイナスになりそうな点があるものは避けた方が良いと思っています。こんな感じで、ひとまず「自分のためになっている」と思って仕事を続けられれば最低限のスキルが身につくと思います。ゲームやスポーツなどと同じで、スキルが身につくとできることが増えるので仕事を楽しめる範囲も広がっていきます。こういう手順を踏めば自分が好きな仕事というのが見つかる可能性はだいぶ高まり不幸に感じやすい時間を短くできるのではないかと思いました(それでも夜中に呼び出されたらさすがに嫌だと思いますが)。
あと仕事は業務より人間関係の影響の方が強いと思っています。ほとんどの場合は周囲の人間と連携することで業務を進めていくので、周囲の人間と軋轢があると業務が滞り、好きなことをしているはずの時間を好きになれずに不幸になってしまうこともあるのではないでしょうか。
6章は「ちょっとのことで差がつく仕事の習慣」がテーマ。「お金で買えない心の価値を自分の中に貯めこむが人生で一番大切なことなのではないか」というのが最後の項目で語られています。それはさておき、この章で目に留まったことは3つあったのでそれについて触れていきます。
目に留まったのは「落差のある体験を積み重ねる」「良い縁を途切らせない」「もしあと1時間で死ぬとしたら?」という3項目です。
まず、「落差のある体験を積み重ねる」という項目。苦労の先に達成した感動がある…ような話ではないですが、人間はその落差があることで感動をする生き物で、その落差は日常に意識的に作った方が良いという話です。一瞬納得しかけたものの「落差を意識的に作る方法」がよく分かりませんでした。
例えば、達成感というのは「それを達成するまでの苦労が落差を生むからあるもの」だとして、その達成した何かが自分にとって必要なものならば、そこに辿り着くための過程は苦労と感じないこともあるのではないか・・・という見方もあり、もしそうならそこに落差は生まれません。その考え方に沿って意識的に落差を作るとすると、自分にとって必要かまだ分からないものに取り組んでみるということでしょうか。必要かまだ分からないものへの取り組みはその人の中で優先順位は高くないはずなので、達成感から来る感動のために優先順位を高くつけられるかというのは少し疑問に思いました。
そんなことを考えると落差を意識的に作る方法が分からないので、これについてはもうちょっと考えてみたいと思いました。
2つ目は「良い縁を途切らせない」という項目(「途切れる」⇒「途切れさせる」だと思いましたが「途切らす」ってちゃんと言うみたいですね)。「この人とはこの先も縁を切りたくない」など考えているつもりではありましたが、ここでポイントだったのはどのくらいを縁を繋ぐべきかというところで連絡する頻度などの話が出ていたことです。定期的に連絡をとらないと縁は勝手に途切れてしまう・・・当たり前のことですが、縁を切りたくない人と縁が切れるかもしれないほど連絡が空く経験はしたことがなかったので、今後の長い人生だと起こりうるのではないかと思い、気を付けた方が良いと感じました。
3つ目は「もしあと1時間で死ぬとしたら?」というコラム。
人生でいつどこで命を落とすか分からないので、いつそれが訪れても後悔しないように生きていたいです。この問いについて考えたときに私は「いつそれが訪れても後悔しないで迎えられる」と思っていたのですが、本書を読んだ直後に余命宣告されたヒロインを描く映画を観ながら「いつ死んでも後悔はしないけど、生きることには絶対未練が残るだろう」と思いました。
というか、未練がないのはなかなか悲しい状態で、未練なく死ねると思ったその瞬間に仮に死ななかったとしたら、その瞬間は「その後の人生でやりたいこともなくそれを見つけるモチベーションもない」という状態だとも言えるのではないでしょうか。そう考えると、人間いつかは死ぬことに逆らえないとはいえ、コラムで書かれているように「ゴール!僕の人生面白かった・・・って思いたい」とは思えないのではないかと感じました。
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3,4章で中だるみして5,6章もパラパラと読み進めてしまいましたが、気になった項目をピックアップするだけで意外と長くなってしまいましたね。
本書は「決して優秀ではなかった…そんな自分が幸せなサラリーマンになれた」という風に始まるので、どのようにしてそのようになったか・なれるかという内容を連想させますが、実際はある程度の立場を手に入れてからの経験話が多いです。なので書き始めの部分はどこかに織り込むにしても別の書き方があったのではないかと思います。
しかし、中だるみしながらも最後まで飽きずに読み進められたので、どこか面白いと感じていたのかもしれません。内容が面白かったかはともかく、本書を読んで感じたことは「面白い人はポジティブである」ということです。「ポジティブな人は面白い」というわけではありませんが「ネガティブな人は面白くない」ということなので、面白い人になる第一歩として今後もポジティブに考えて生きていきたいですね。