漫画・アニメの「クズの本懐」の感想。
かれこれ観たのは1年前、リアルタイム視聴していました。
アニメの視聴をきっかけに漫画を全巻購入するくらいには面白かったです。
「アニメ1〜11話」→「漫画1〜8巻」→「漫画7.5巻」→「アニメ12話」
・・・という順番でした(同時期放送のドラマも最初は観てましたがノーカウント)
ネタバレのある感想は続きから。
○作品タイトル
まずタイトルの「クズの本懐」というワードの選定が結構衝撃です。
ファンブックにあたる7.5巻でも述べられていたのですが、「クズ」というキーワードは、自覚がある人も、周りの誰かにそれを感じている人も、全く無縁の人も…とりあえず何か反応してしまう・させられてしまうようなパワーを持った単語だと思っています。
「本懐」というキーワードも日常ではあまり使わないからこその本心が乗り移ったような単語だと感じる部分があり、それらを組み合わせてシンプルに表現されているところも良いと思いました。
○世界観に対する印象
アニメを数話観た最初の感想は「みんな自分の欲望に正直なところが好き」というものです。そして、それは爽やかな感じで演出されていて、観ていて清々しさを感じるほどでした。
この世界観を描く上で、高校生という設定が活きていると思います。「自分の欲望に正直」でそれに対して葛藤する様子は、若さや未熟さ故のものと思うと共感(?)しやすいです。これが例えば不倫物だったりすると「いい大人なのに自制もできない」というだらしない映り方に見えてしまうので、そう考えると受け入れやすさはあったと思います。
また、高校生活を舞台にした恋愛物は、甘酸っぱい雰囲気を全面に押し出してくるような構成がほとんどですが、どこか夢物語のようでリアリティに欠ける部分が多いです。この作品には「自分の欲望に正直」という毒要素がありますが、高校生ほど大人びた年代にはそれくらいの方がリアリティがあり、よくある青春作品の退屈感を埋めてくれるようでした。
そういった感じで「キラキラせずドロドロもしない」2つのバランス感が良かったです。そのバランス感を演出する上ではアニメの主題歌2本も欠かせない要素だったと思います。
○「クズなのは誰か?」
しばらく観ていて「この人たちって本当にクズなの?」という疑問が浮かびました。
よくよく思い返してみると、人生の中でクズの定義について考えたこともなければ、「あー、自分ってクズだな」とか「こいつクズかよ」と感覚的に思ったこともありませんでした。また、そもそも「欲を持つこと、それを叶えようとすること、は悪いことではない」と思っているので、登場人物の多くが自分に素直な良い生き方をしているとさえ思う部分もありました。
結局、「この人クズだな」と思えるようになったのは皆川茜のみ。
細かい定義はさておき、クズがクズである所以は「自分の利益を追求する上で、他人に迷惑をかける、または迷惑をかけることに気付けない」ところでしょうか。とはいえ、誰にも迷惑を掛けない完璧な人間なんて存在しないに等しいため、誰しもがクズな一面を抱えており、そういう部分をお互いに許し合って生きているわけです。なので、それができないか際立って目立つ人間がクズと呼ばれるのだと考えました。
これを踏まえて、皆川茜を見ると「自分の利益を追求した弊害として他人に迷惑をかける」のではなく「他人に迷惑をかけ不幸にする行為が自分の利益の追求に繋がる」という点がとても厄介だと思いました。おそらく、多くの人は自己の利益と迷惑コストをモラルの天秤に掛けて行動するものだと思うのですが、「搾取する」側の彼女にはそんな天秤が存在しません。その上で「それしかやり方を知らない」という理不尽さを持ち合わせていて、ラスボス(?)として圧倒的な存在感を放っていたと思います。
因みに、ファンブックでも「誰が一番クズか」議論がされていて、粟屋麦を挙げている方もいました。その理由は「女の子へのアフターケアがなっていない」ということでしたが、モカに対しては関係を持たないことを選びましたし、花火とは元々そういう契約だったと思うと、彼の対応はベストではないものの、際立って目立つクズだとは感じなかったです。
○エンディング
物語としては落ち着くところに落ち着いたというところでしょうか。花火や麦の片思いが報われないことは分かっていたものの、鐘井先生と茜が結婚するとは予想もつかず。怪物を倒すには怪物級の突拍子もない言動が必要ということでしょうか・・・。
とはいえ、鐘井がどうしてプロポーズに至ったのかは解釈が難しいです。「やめられないなら男好きでもいいですよ」と言う鐘井の気持ちも分かる気はします(「俺はただ好きな人には元気でいてほしい」という言葉)。ただ、結婚は「自分のことを一番に考えてほしい」という意味を持っているようにも思えて、特に独占欲のない彼の考えと相反する部分があるように思いました。
それにしても、花火も麦も「本物の好き」はとんでもなく遠いですね・・・。彼らが今後どういう恋愛をしてどういう考えを抱くかの外伝(続編ではない)があると面白そうですね。
○全体通して
世界観で先述したように「キラキラせずドロドロもしない」バランス感が良かったです。アニメの方がそれを感じられるようになっているので、アニメで世界観のイメージを掴んだ後に漫画で各シーンを深く味わっていくような楽しみ方ができたのはラッキーでした。また、アニメを通じて酸欠少女さユりの存在を知ることができまのも個人的には大きく、そういう点も含めて非常に衝撃を受けた作品でした。
私は登場人物のクズな部分に共感も軽蔑もせずに見ていましたが、もしかするとこれに嫌悪感を示すことなく、そもそもクズかどうかの判断もできない私の倫理観がどちらかと言えばクズ寄りなのかもしれませんね(
余談。花火の今後について想像してみた。
彼女の「本物の好き」にはなかなか出会えないまま大学生になって、酔っ払ったところを介抱してもらってみたいな拒みづらい状況でたいして好きでもない人と初めてを経験する。それで、身体を結ぶことと「本物の好き」を感覚的に錯覚して、それがただの錯覚であることを自覚しながらもその感覚を求めて渇望する…みたいな(
あまり良い恋愛はできないまま皆川茜みたいな方向へ進んでいきそうな予感が個人的にはしています。