『恋と嘘』12巻の感想。

恋と嘘』の12巻を読んだので感想。

 

〇作品のあらすじ
政府は少子化対策の一環として通称ゆかり法という法律を定めた。これにより、満16歳以上の人間は婚姻対象として政府独自の演算に掛けられて、政府によって決定された相手との結婚を義務付けられる。
そんな世界で生きる根島由佳吏には、小学生のときから5年間片思いを続けている相手・高崎美咲がいた。政府通知で相手を決められる前に彼女への想いを伝えたい、と由佳吏は16歳になる前日に意を決して彼女に告白する。すると、彼女もまた由佳吏に5年間片思いをしていたと言い、晴れて二人は両想いとなる。
・・・が、その直後、日付が変わって16歳になった由佳吏に政府通知が通達される。そこには高崎美咲ではなく真田莉々奈という名前が記されていた。一方で美咲も意味深な言葉を残して去っていく。こうして、由佳吏は両想いのはずである美咲のことを想いながら莉々奈と向き合うことになっていく。


〇私と『恋と嘘
最初に知ったきっかけは2017年9月クール放映のアニメでした。
2017年1月クールの『クズの本懐』がとても好きで、漫画も全巻買って余韻さめやらぬタイミングでアニメの存在を知りました。『クズの本懐』の少し歪な形で青春している感じを『恋と嘘』の設定にも重ねて感じ取って、アニメを観ました。
とはいえ、原作も終盤を迎えていない状態で1クールで上手に風呂敷を畳めるわけもなく、アニメは少し中途半端なところで終了。続きが気になったので、そこから漫画を読み始めました。
漫画は9巻前後で少しグダっとしそうな雰囲気を感じましたが、そこから変に長引くことなく最終巻を迎えたということで、1~11巻を買って読み直して12巻を迎えました。

 

〇最終巻が2種類
12巻は最終巻にあたりますが『美咲編』『莉々奈編』の2種類存在しています。いわゆるマルチエンディングですが、漫画でそれを経験するのは初めてでした。個人的には少なくともこの作品ではイマイチな気がします。
小学生からの初恋で今も両想いであるはずの美咲、政府通知で決められたとはいえいつも傍で支えてくれる莉々奈。ある意味では究極の選択で、主人公の由佳吏がこの二人から何を思って何を感じてどうやって前に進んでいくか……が物語で一番楽しみにしていた部分で、どちらかしか選べない中で下す決断だからこそ盛り上がると思っていただけに、12巻が2種類あるという発想自体を想定していませんでした。
因みに、買った後はどちらから読むかは少し迷いました。例えば、ゲームのマルチエンドなら提示された選択肢をプレイヤーが選ぶことが分岐となることが多く、その瞬間に立ち会えるのでそれまでの情報からどちらかを選ぶことはできそうです。ただ、漫画単行本となると、どこが分岐の瞬間になっているかが分からず、主人公の立場になったつもりで選ぼうにも判断がつきません。仕方がないので、好きなキャラクターである美咲のエンディングを最初に読むことにしました。

 

ここからはネタバレを含むので一応続きから。

 

〇『美咲編』の感想
人生を懸けて自分の命を救ってくれた美咲に対して、由佳吏がその命を美咲の人生に懸けようとする覚悟と向き合い方は良かったです。ただ、寿命というスケールの大きさで政府通知が蔑ろにされている気がします。
この二人が結ばれた場合は由佳吏が治療を受けられずに命の保証がないだけでなく、二人とも政府通知を反故にした社会不適合のレッテルを貼られて生きていくことになります。また、莉々奈が二人の元にいる理由もなくなります。そういった苦難も背負った上での決断だと思っていたので、何事もなく進路が決まって卒業して温かく平穏な未来を手に入れた姿だけ見せられると、今までの設定や苦渋は何だったのだろうと思うところがあります。

 

〇『莉々奈編』の感想
莉々奈と幸せになるためには、莉々奈と美咲が仲良くできている未来を迎える必要があるので、由佳吏が美咲を振る落としどころは良かったです。
美咲編を読んだ後だったこともあり「どちらかを選ぶことは、どちらかが報われないこと」という考えがあり、死を選ぶことも考える面倒くささを持った美咲とどうやって向き合うのかと思っていましたが、由佳吏が美咲の想いを受け止めながらも断る・・・たったそれだけのことで報われるんだ…とすごくハッとした気持ちになりました。確かに、美咲は最初から由佳吏と莉々奈が結ばれることを願っていて、自分の想いが報われず嘘になってしまうこととのジレンマにいたので、恋として終わらせるという結末はすごくナチュラルでした。
強いていえば、由佳吏の気持ちの分岐については気になっていて、それは次の項目で書きます。

〇分岐のポイント
行方をくらませた美咲を探しに行く段階で由佳吏の気持ちは決まっていたと思うので、それまでの描写で差異を見てみると「柊が由佳吏の家から帰った後の莉々奈の言動」「その日の夜に見た夢」「事前結納での莉々奈の言動」に大きく分けられます。
最終的には、由佳吏が莉々奈の存在の大きさに気付けるかどうかが気持ちとしての分岐点だと思うのですが、そう考えるとそれぞれのストーリーで莉々奈の言動が違っていることが気になります。莉々奈編では「(美咲か莉々奈かすぐに選べない中で)私の告白に返事をしてくれてありがとう」や「話してよ、一人で抱え込まないで」と莉々奈が由佳吏に寄り添う気持ちを言葉としても表現していて、こういった積み重ねがあったから由佳吏が自分にとっての莉々奈の存在に気付けたのだと思います。
とすると、由佳吏の気持ちそのものが分岐点というよりは、由佳吏の気持ちに影響を与える莉々奈の言動の有無が分岐点になっていると言えます。二者択一の決断をするまでの状況が違っているのは不平等な気がしてなりません。そういう意味では、莉々奈の行動もあって由佳吏がその存在の大きさに気付いた上で、美咲と莉々奈のどちらを選ぶかというマルチエンディングが見たかったです。
私は美咲編から読みましたが、もし逆から読んでいたら美咲編は「莉々奈が自分の気持ちを正直に伝えていない、その上で美咲を選んで莉々奈は報われない上に、二人は何の気なしで平穏な未来を迎えた」という話に見えるので、印象の悪いものになっていたかもしれません(逆から読んだらそれはそれで別の何かを思った可能性もありますが)。

 

〇総括
気になったことを多く書く形にはなってしまいましたが、色々と楽しむことはできました。マルチエンディングについて自分の考えを整理できる経験にもなりましたし、結果的に12巻の読む順番も正解だったと思います。
この作品において、由佳吏の不器用なところ、莉々奈の純粋なところ、美咲の人間としての面倒くささ、が好きだったので最終的には二つの結末で最後までそれを感じることができて面白かったです。